私が次期部長に選ばれた。責任重大だが、部のみんなに認めてもらえたということだ。嬉しい。鶴賀学園麻雀部は小規模だが、きっと県予選を見て興味を持ってくれる人もいるはずだ。私には加治木先輩や蒲原先輩と同じ事はできないけど、新入部員が入ってきたらうんと優しくしてあげよう。
「津山、麻雀は時に厳しく指導することも必要だ。お前ならやれる」
加治木先輩はそう励ましてくれたけど。
本当はちょっと、寂しいんです。
県予選が終わって、引退した先輩たちも時々部には顔を出してくれる。こんな時間がずっと続いてほしいと思っていた。
そこに届いたのは、清澄高校麻雀部からの合同合宿のお誘い。
みんな賛成してくれた。
私の渉外初仕事。気持ちを込めて、参加するという返信をしたためる。
慌てる私を、先輩たちはそっと助けてくれた。
合同合宿の日がやってきた。
清澄、風越女子、龍門渕、そして私たち鶴賀、四校が揃った。
実はちょっと嬉しかった。
先輩たちの表情が違うのだ。特に加治木先輩。先輩はこの合宿に特別な意味を見いだしているのだろうか。目つきが現役の頃に戻っている。凛々しくて素敵だ……。
「睦月、この合宿をどうとらえている」
合宿の合間、鶴賀学園の部屋で、私が暇つぶしにプロ麻雀せんべいのカードを並べている時だった。
加治木先輩の声は、時に厳しく、時に優しく響く。
「わ、私は、部員たちの統率能力を、その」
「ああ、そういう考え方もあるな」
お前なら大丈夫だよ。そんなに肩肘張るな。
加治木先輩はそう言ってくれたけど。
「お茶淹れます」
「ありがとう」
先輩は考え事をしているようだったので、邪魔をしないよう湯飲みをそっと置いて戻る。
手ではカードを並べながら、頭では先輩のことを考えていた。
加治木先輩は他人の領域には決して踏み込まない。そしてある意味マイペース。時折見せる表情は、孤高の一匹狼を思わせる。
その加治木先輩が、東横桃子さんといる時だけは違うのだ。
赤くなったり慌てたり。離れているとそわそわしたり。
……そういえば先輩、何だかそわそわしてませんか。
急におかしくなってきた。くす、くすくすくす……。
「ん、どうした津山?」
こらえていたのに気付かれてしまった。
「いえ、なんでも……」
「なんでもないって、笑ってるじゃないか」
そう。普段の先輩ならここまで追求しない。やっぱり、桃子さんのことだったんだ。
「桃子さん帰ってきませんね」
「!」
やっぱり。
心を許すというのは、ああいうことなのだろう。
私もいつか、そんな人と出会うのだろうか。
「津山、誤解があるようだが、私とモモは……」
「おじゃまするし!」
突然部屋に現れたのは、風越の大将。もう一人は背の高い、中堅だったか。
帰り道がわからなくなったらしい。
それからはあっという間だった。
藤田プロが現れて加治木先輩を連れ去り、風越の大将は部屋に戻ってしまい、私達二人が残された。
「小鍛治プロって親しみやすいですよね」
「確か地元のクラブチームで活動してるとか」
「それでいて……いじられキャラなのがかわいいというか」
「うむ。で、藤田プロは嫌い?」
「もうその話は勘弁してください……」
彼女は文堂星夏さん。牌譜では強気の打ち手に見えたが、話してみると控え目でちょっと気弱なところがあって意外だった。プロ麻雀せんべいに関しては別だけれど。
そして、小鍛治プロの大ファン。
この合宿に集まった全員が麻雀好きなのは当然として、プロ麻雀せんべいの話ができる人と出会えるとは思わなかった。
話し込んだらすっかり時間が経ってしまい、今夜は解散することとなった。
「急に押しかけてすみませんでした。楽しかったです」
「いや、私も楽しかったから気にしないで」
「あの、またお話できますよね?」
「うん。まだ合宿はあるからね。それじゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
しかし、タイミングが悪くその機会は訪れなかった。
早起きして全員が荷物をまとめた。私たち鶴賀は一番遠くから参加しているから、帰るのも一番先になってしまう。
私の手には文堂さんに渡せなかったカードがあった。カードの中の小鍛治プロが何だか残念そうな表情に見えるのが不思議だ。
風越の部屋に行ってみようか。でもまだ寝てるだろうし……。
「よしみんな行くぞワハハー」
……はっ。さすが蒲原先輩、仕切りがうまい。本当は新部長の私がしっかりしないといけないのに。
四人で先に車に乗り込んで、用事があると遅れてくる加治木先輩を待つ。
しばらくして、加治木先輩と一緒に現れたのは、清澄の部長と、風越の部長。
「あっ!」
「どうしたむっきー」
「ちょっと行ってきます!」
車を降りて駆け寄る。直接挨拶したこともないのに不躾だろうか、なんて考えられなかった。風越の部長さんはすぐに気付いて、こちらを向いてくれた。
「これを文堂さんに渡していただけますか?」
「渡せばわかるのね、津山さん?」
私の名前、知っていたんだ。ああ、文堂さんが話していたっけ。確かに、凄い人だ。
「はい。お願いします」
心から頭を下げて、邪魔にならないようそそくさと車に戻る。……よかった。渡せた。
「待たせてすまない」
程なくして加治木先輩が車に乗った。
「津山」
無言でにじり寄る桃子さんをかわしつつ、先輩が声をかけた相手は私だった。
「あれ、小鍛治プロのカードじゃないか? 余りがないとか言ってた」
「そうです」
胸を張って答えることができた。加治木先輩は全てお見通しだ。
「そうか。よかったな」
「はいっ」
「むむむむっちゃん先輩! 加治木先輩! 二人だけで何話してるっすかー!」
○あとがき
「ポニーテールをこんなにないがしろにするアニメは見たことがない」
アニメ放送当時にこんなことを言っていたわけで。
いつかむっきーのSSを書こうと思ってたら、ある日アイデアが降ってきた。これはいけるということで、書き始めた。勢いで書く時はとにかくアウトプットできることをしていく。寝て起きて冷静な頭で推敲して削ればいいという条件付きで。この後始末がまた大変なのだが、思いつく限りはあとのことは考えずにどんどん書く。書く。書く。
眠さもピークを越えて、区切りのいいところを探しつつ、本当に区切りがいいところで寝てしまうと続きが書けなくなる。
推定午前10時。PC前で寝落ち。目が覚めて時計を見たら小一時間経っていて、しかも非常に怖ろしい話なのだが。
右手が動かなくなっていた。
橈骨神経麻痺という症状。
ここで原稿はストップ。
左手だけではタイピングが追いつかないし、今でもそう。
そして思い返してみればわかることが一つ。
睦月のKOI-GOKOROをもてあそんだ罰が当たったのだ。
そういうわけで該当箇所をざっくり削除して書き直したのがこのSSになる。
楽しんでいただけたなら幸い。
校正協力:咲クラスタ某チーム