September 09, 2010

ウィッチたちのデブリーフィング

「よかった。サーニャちゃんもエイラさんも無事に帰ってきました……」
「宮藤!」
 倒れそうになった宮藤の身体を抱きしめる。しっかりしろ。やはり無理をしていたな。
「トゥルーデ、宮藤さん!」
「大丈夫だミーナ。魔法力をギリギリまで使った状態で、気力だけで二人の帰還を待っていたんだろう。まったく、しょうがない奴だ」
 宮藤は私の腕の中で寝息をたてている。
「バルクホルン大尉、お手伝いしましょうか?」
「このくらいなら一人で大丈夫だ。宮藤のベッドの方を頼みたい」
「わかりました」
 ひとまず宮藤を部屋に連れていこう。まったく、こんな小さい身体のどこにあの元気が詰まっているんだか。
「後を頼む」
「わーお姫様だっこだ」
「大尉がやると違和感ないなー」
「シャーリーもしてしてー」
「やだよ暑苦しい」
「えー」

(わたくしが倒れたら坂本少佐もああやって介抱してくださるのかしら)
「ムリダナ」
「!?」
「ん? 何怖い顔してるんだツンツンメガネ」
「あなたには関係ありま……。ご無事で何よりですわ、エイラさん」
「うん、その、アリガトな。ペリーヌ」
 ぼそぼそと言葉を残して行ってしまう。
「エイラさん、まさか宇宙線の影響でおかしなことに!?」
「ううん。エイラも本当はペリーヌさんに感謝しているのよ」
「サーニャ、風呂に行こう!」
 突然戻ってきたエイラは半ば強引にサーニャを連れ去る。だが、二人がしっかりと握り合う手を見逃すペリーヌではない。
「ホント、よく帰ってきましたわ」

 高度10万フィートのミッション。坂本少佐の作戦立案は的確だった。最終的な攻守、エイラと宮藤だけではない。ブースターを使わず、レシプロで限界高度の3万フィートまで彼女たちを打ち上げる任務は、私たち、いわば、ベテラン組に任された。理由はおそらく二つある。一つは、最もバランスを維持するのが難しい打ち上げの第一段階であること。これはもちろん、私たちなら難なくこなせる。もう一つは、魔法力が潤沢な若い世代のウィッチたちにブースター装着の適性があるということだろう。ある程度の余力がなくては不測の事態に対応できない。
 余力とはいっても、一旦上昇速度を殺した上でエイラをサーニャの高度まで押し上げるというのはかなりの魔法力を消耗したことだろう。既に基地に帰投するはずのエイラが任務を続行するのも無茶だったが、宮藤の無鉄砲ぶりは昔から変わらない。

「お待たせしました大尉。私のベッドですが準備しました」
 なるほど、宮藤は二段ベッドの上か。
「いけませんでしたか?」
「いや、いい判断だ。手間をかけてすまない」
「いいえ」
 二段ベッドの下の段を借りて宮藤を寝かせる。と、コートは脱がせておくか。
「これはその辺にかけておいてくれるか」
「大尉のコートでしたね」
「ああ。後で持って戻る」
「他に何かお手伝いできますか?」
「みんなが心配しているだろうから、大したことはなさそうだと伝えてくれ。それと……」宮藤の親友には少々言いにくい話なのだが。「後は私が見ているから、しばらく二人にしてもらえるか」
 彼女は何か言いかけたが、そのまま私のわがままを聞いてくれた。
 わがままな上官か。我ながら困ったものだ。

「宮藤……」
 顔色は悪くない。魔法力切れなら十分な休養をとればすぐに回復する。もっとも、私がジェットストライカーで墜落したときにはひどい顔だったと皆が口を揃えていたが。
 確かに、自分が魔法力切れで墜落するとは思ってもいなかった。飛行中に意識は失ったが、飛行訓練の初歩の初歩で叩き込まれる、墜落時の対処を体が覚えていて自然に実行することができたのだろう。訓練は大事だ。

「サーニャちゃん……」
「気がついたのか宮藤?」
「すぅ」
「寝言か」
 ふと、周りを見渡してみる。宮藤を連れてきたときには夢中で気がつかなかったが、しっかりと整頓されていて居心地のいい部屋だ。
(フラウももう少し考えてくれればな)
 ジークフリート線を思い出してしまう。
 ふと、見慣れたコートに目が止まる。私が宮藤に貸していたものだ。物に対して必要以上に感情移入するつもりはないが、おまえが宮藤を無事に連れて帰ってきてくれたのかもしれないな。
 無意識に、ハンガーからはずしたコートを抱きしめていた。宮藤の……においがする……。
 ちらり、と宮藤の方を伺う。まだ眠っているようだ。
 もう少しくらい、かまわないだろう。
 頭で考えるわけでもなく、何となくにおいをかいだり、着てみたり。どうでもいいようなことをしばらくしていたような気がする。そのうちに、ふと胸に沸き上がってきたいいようのない不安感――

 宮藤がこのまま目を覚まさなかったらどうしよう。

 そんなはずはない。そんなことがあるはずはないのだ。わかってはいても、生まれてしまった疑念は簡単に消えてくれない。もう一人の自分が、バルクホルンらしくないじゃないか冷静になれと必死でささやいても、私の心はバランスを失ってしまったかのように大きく揺れていた。
 呼吸が苦しい。立っていられない。イスに座って頭を低くする。
 こんな時どうすればいい。ミーナ、坂本少佐。宮藤が。宮藤が……。

「顔色が悪いですよバルクホルンさん」
 どれくらいそうしていただろう。誰かに呼ばれていることは認識できても内容がわからなかった。
「バルクホルンさん、お水飲めますか?」
「ああ、頼む……」
 受け取った水を口に含む。軽い炭酸が気持ちを切り替えてくれたかのように、そのまま飲み干してしまった。
「ふう。ありがとう」
 グラスを返すところでようやく目が合った。
「みみみ宮藤!?」
「はい」
「起きあがって平気なのか? 気分は? 痛いところはないか?」
 宮藤は、一度に聞かれても困りますよえへへ、なんて言葉を顔に張り付けながら片付けを済ませ、戻ってくると全く問題がないことをアピールしてみせた。
「ふむ」
 上官として叱っておくなら今か。あまり好きではないが、宮藤ならしっかり吸収して今後に活かせるだろう。
「バルクホルンさんは大丈夫なんですか?」
「まあ色々とあってな。……気をつけ」
「えっ?」
「気をつけ!」
「はっ!」
「よろしい。休め」
 坂本少佐の教育がいいのか、扶桑気質か。基本教練はしっかり身についているようだな。
「大切な話だからしっかり聞くように」

「宮藤、なぜ倒れたかわかっているか」
「はい。魔法力切れで……」
「まるで新兵だな」
「でもバルクホルンさんだって」
「あ、あれは試作機の実験中だったんだ。仕方がない」
 思わず目をそらす。
「だが、お前の場合は状況が違う」
「はっ、はい」
「どう違ったのか言ってみろ」
「バルクホルンさんがいませんでした!」
 きっぱり言い切るんじゃない。
 自分で気付くのが一番なんだが……。
「宮藤」
「はっ……わっ」
 有無を言わさず抱きしめる。
 そうだ。回りくどいことなんて必要なかったんだ。
「いいか、宮藤」
 ゆっくりうなずくのが伝わってくる。
「私たちは家族なんだ。困った時には、助け合えばいい」
 こくり。
「あの時、ペリーヌやリネットが一緒にいただろう」
 こくり。
「疲れたのなら、肩を貸してもらえばいい」
 ふるふる。
「なんだ?」
「でも、バルクホルンさんがいませんでした」
 何を言い出すんだ宮藤。
「怖かったんですよ!」
 私の胸から離れて向かい合う。
「ストライカーはふわふわしていうこときかないし」
「大気が薄いからな」
「ブースターだって細かいコントロールができないし」
「ウィッチが何を弱気なことを言っている」
 それを聞いて、宮藤はぷーっと顔をふくらます。
 ……くすっ。
「あ、今笑いましたねバルクホルンさん」
「すまん。ダダのこね方がクリスそっくりだったんだ。お詫びというわけではないが、今日はとことん話を聞いてやるぞ」
「えっ、いいんですか?」
「ああ。たまには甘えてもいいんだぞ、芳……」
「芳佳ちゃーん、お茶が入りました」
「リーネちゃん」
「大尉もご一緒にいかがですか?」
「そ、そうだな」
 ……なんだかタイミングがよすぎるのは気のせいだろうか。

「凄かったんですよ芳佳ちゃん」
「ああ。下からも見えた。噴射光が大きかったので事故ではないかと心配した」
「見えてたんですか」
「ああ、坂本少佐とミーナの実況付きだったからよかったが」
「芳佳ちゃん、急にエイラさんを引っ張り上げて」
「誰かさんはブースターのコントロールが難しいと泣き言を……」
「わーっ、わーっ!」
 慌てる宮藤を横目で見てやるとふてくされたような顔つきをしていた。ふふ、おあいこだ。
「でも芳佳ちゃんが無事でよかった。ずっとバルクホルン大尉がつきっきりで看病してくれてたんだよ」
 ぶっ。
「ありがとうございます。バルクホルンさん」
 そんな無垢な笑顔を向けるんじゃない。
「そういえば大尉、コートが落ちてますよ」
「ビショップ曹長、そ、それはだな……」
「急にどうしたんですか、大尉」
「そうですよ、バルクホルンさん」
(こ、こいつらーっ)

「あー、ベッドの上まで上るのはムリダナ……」
 ぼふっ。
「ん……サーニャ? しょうがないわね。狭いけどちゃんとベッドで寝ましょう」
「さーにゃー」
「ふふっ。今日はありがとう、エイラ」


(あとがき)

 旬を逃すことに定評のあるMobiusですこんばんは。
 ストライクウィッチーズ2 6話凄かったですね。おまえらクラスターロケットやりたかっただけだろって。しかも多段式で、分離後に美しい軌跡を描きながら離れていくウィッチたち。ホント、趣味だねえ。ったくしょうがねえ奴らだぜ。……って言いながらなんか見ててうるうるしてました。こういうのが好きなんだよ、俺は。
 さて、6話ではエイラが無茶をしましたが、芳佳も無茶をしていたということで、こんなお話を思いついてみました。夏コミの後って創作意欲の高まりが凄いですよね。そんなこんながあってようやく完成しました。楽しんでいただけたら幸いです。


FAQ

Q.軌道計算しなくていいんですか
A.ウィッチをなんだと思ってやがる

Q.フリーガーハマーは射撃の反動ないんですか?
A.どこ見てんだオマエ

Q.姿勢制御とかどうしてるんですか?
A.あーなたのめーろでぃー


Posted by Mobius at September 9, 2010 07:27 | ストライクウィッチーズ